本日は、蒔絵師について触れていこうと思います。
まず、「蒔絵」とは
漆器の表面に漆で絵や文様、文字などを描き、それが乾かないうちに金や銀などの金属粉を「蒔く」ことで器面に定着させる技法、もしくはその技法を用いて作られた漆器のこと。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』蒔絵より
蒔絵を描く職人を、蒔絵師と呼んでいます。
蒔絵師と昔を振り返る
時代は昭和に遡って、
私の祖父の代から付き合いのある蒔絵師の話によると、景気の良い時代には漆器のお椀や皿などに100、500、1,000単位で蒔絵を描いて納品していたそうです。
これらはギフト用ではなく、料亭、旅館、日本食レストラン向け、いわゆる業務用の器です。
(四季折々の花・木・草や風景などが描かれた器で旬の食材を食することは、日本人らしい豊かな感性ですね。)
越前漆器産地は、ギフトや家庭用も扱っていますが、業務用の漆器を扱うことでシェアを伸ばしました。
今では、よほどのことがない限り、手描きの蒔絵で100以上の注文が入ることはありませんが、
当時は全国の問屋さんから、まとまった注文が入りました。
問屋さん自体も在庫をもってくれたので、100単位での注文は当たり前だったのでしょう。
そういう時代だったんだなぁ・・・
そんなわけで決められた納期に間に合うよう質を落とさず同じものを効率よく描いていくために、型を作り、蒔きのタイミングを変えたり、毎日毎日朝から晩まで仕事をこなしていたそうです。
それだけの仕事量があれば、職人の技術と経験値も上がり、お弟子さんも育つ環境が整っていたわけです。
仕事として生計が成り立てば、親も子供に継がせたいと思うでしょうし、職人の2代目も少なからず育っていったのです。
やがて印刷の技術が発達するとともに、手描きの蒔絵から大量に安くできるスクリーン印刷やパット印刷などに変わっていきました。
「大量に安く」というのは、手描きの蒔絵では実現できません。
結果、業務用漆器での蒔絵の需要は少なくなり、蒔絵師の数も減ってしまったというわけです。
現在、そして未来
さて、バブル崩壊からずいぶん経った今、大量生産の時代はすっかり終わりました。
あんな時代は私が生きている間には二度と来ない。
蒔絵に関して言えば、現在も需要は少ないというのが現状です。
が、蒔絵という技術に価値を求めている人は少なからずいます。
本物の漆で描き、本金や本銀、色粉などを蒔く蒔絵は、いくら印刷技術が発達したといっても本物には叶いません。
少量であれば、却って印刷のほうが高くつく場合もあるでしょう。
漆器の修理で言えば、古い漆器の蒔絵の復元をしたい、というお客様もいらっしゃるのです。
産地も違えば、蒔絵の技術も違うことがほとんどですが、大量生産の時代に量をこなしてきた職人には多くの知識と経験があり、自分たちが持っているもので、修理を受けてくれるのです。
自分に自信がなかったら、多分描いてくれません。
消えかかった古い蒔絵を見て、どういう技法で、どういう材料で、どういう工程で仕上げられていたのかを推測し、自分のやり方で描き直すのです。
蒔絵師によってやり方はさまざまだと思いますが、
いつもお願いしている越前漆器の蒔絵師は、必ず型をとって描くというやり方です。
型を取って、写して、本番と結果的に同じものを3回描かないと仕上がらないので、とても手間がかかります。
それに加えて、本金も昔とは比べ物にならないくらい高い!
こういう修理の対応をしてくれる、信頼できる蒔絵師がいなくなるという事が近い将来に迫ってきていて、本当に困ったなぁというのが2021年現在。
少し未来に目を向けてみましょう。
Instagram(インスタグラム)で蒔絵と検索してみたら、「#蒔絵」は4.1万件
作家さんの伝統工芸的な蒔絵だったり、若い人たちのアクセサリーに描かれた蒔絵だったり。
アクセサリーはとっても多くて、若い人たちが自由な感性で蒔絵を楽しんで作品なり商品を生み出しているという印象です。
蒔絵という伝統技法で楽しむ人は今後も絶えないと思いました。
これは、単純に嬉しいことです。
ただ、職人という視点で考えると、それは違うような気がします。
以前、永六輔さんの「職人」という本を読んだのですが、そこに職人の本質みたいなものが書かれていて、
読んでいて、これこそまさに職人的な考えだなぁと思った覚えがあります。
急に思い出したら、私ももう一度読み直してみたくなりました。
そうはいっても時代はどんどん変わるわけで、時代の流れに沿って考え方や意識を変えていく必要はありますね。
蒔絵師が普段使っている筆 引き出しにぎっしり詰まっています。
いろんな種類があって、線の描き方一つで使い分ける大事な道具です。
筆だけ見ても、こだわりやプロとしての意識を強く感じます。
一本何万円もする筆を作る職人さんも今ではほとんどいないそうですが・・・
なるようにしかならないのかもしれません。
蒔絵はどんどん進化していくと思いますが、漆器修理に関しては、少しでも長くお役に立てればいいなという思いです。