【最初に】
今回の修理事例は、結果的にご依頼いただいたお客様にご満足いただけませんでした。
しかしながら、こういうこともあるんだという事例としてご覧いただけたらいいなと考え、掲載する運びといたしました。
※ご依頼いただいたお客様の了承を得ています。ご理解に感謝します。
ホームページの修理事例をご覧いただいて、私どもにお問い合わせいただいた内容が、「70年前から日常使いしていたもので愛着があるので修理して使いたい。木目の風合い(塗りの剥がれなども含めて)はなるべく残したい」ということでした。
修理前の状態
合わせた時に、多少の隙間があったので、漆での修理の場合は、接着した後に漆の錆(パテ)を埋める必要があります。
隙間に錆を埋めたところは黒い線となって現れる事は申し伝えました。
ここの説明で、言葉だけではなく、写真で示すと、より分かりやすかったのかなと思います。
言葉だけでは理解していただくのが難しいなという反省点です。
耐久性を考えると、真っ二つに割れたものを接着してパテをするだけでは、弱いのではないか、と私たちは考えています。
「これからも使い続けたい」というお客様の思いを伺っていました。ただ飾っておくだけのものであれば、接着だけして風合いを損なわないほうがいいのかもしれません。
丈夫にするために底から側面まで布を貼って、天縁から内側の表面は木目の風合いを活かした拭き漆仕上げにする方法で提案させていただいたところ、布を貼るのは底の部分だけにしてほしいというご要望をいただいたので、側面は貼らないということにしました。
使い続けて出来た表面の剥がれも残したいということでしたので、極力残るように研ぎの工程も最低限にすることにしました。
仕上がり
こうして仕上がったお盆おの状態が、上記の写真の通りです。
①接着の隙間に漆の錆を埋めた部分が黒っぽくなっていること
②裏の布貼りを黒の漆で仕上げたこと
この2点がお気に召さなかった理由です。
漆の錆を埋めたところは黒っぽくなるという説明だけでは想像しにくかったのかもしれません。
漆器の修理は、一つ一つ違いますし、場合によってはやってみないと分からないということもありますので、仕上がりイメージに関しては難しいところだなと常々思っています。
底の布貼りに関しては、布貼りをした時点で風合いは全く変わりますので、一般的に丈夫な黒漆を使ったのですが、元々の色合いになるべく近い色を想像されていたということで、もう少し色を近づけることになりました。
漆の錆の黒っぽい部分も、通常はこの仕上がりとなりますが、錆の上に色をつけて、もう少し目立たない工夫をすることになりました。
改めて、仕上がり
更にやり直して仕上げたものです。
接着の境目の黒っぽい部分に赤味を入れて、多少は目立たなくなったでしょうか。それでも、接着の線がなくなるということはありません。
底の部分は、溜色にしました。全く同じにすることは布貼りをした時点で不可能ですので、黒よりは近い色に仕上げたつもりです。
お盆の縁の接着部分も、同じ色にすることは出来ませんので、なるべく近づけるように明るい溜漆で塗っています。
以上、残念ながら今回はご依頼いただいたお客様にとって想像していた通りの仕上がりにはなりませんでしたが、今後の参考事例と捉え、掲載させていただきました。
今回の修理費用の目安は?
10,000円~15,000円
※工程が増えると、その分費用がかかります。