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漆の塗り直しが簡単ではない理由

漆器というだけで、高価なもの、扱いにくいもの、というイメージもあり、今の世の中では使う人が少なくなってきていますが、こうして漆器修理の需要があるということは、まだまだ漆器が好きな人もいるんだなぁと思うのですが、お客様アンケートのご意見をみると、漆器を修理するということは、少しハードルが高いと感じている方も少なくありません。

 

確かに、漆塗りの修理は簡単ではないですし、下手すれば新品で買う方がお安い場合もありますから。

 

 

例えば、以下の写真のような、お椀の塗り直しがあります。

 

before (修理前)
before (修理前)

after (修理後)
after (修理後)

修理前は、黒が劣化して(日焼けなどの原因もある)茶色っぽく変色してます。

一部表面の漆の膜が浮いていたり、剥がれも見られ下地や木地が見えてしまっています。

 

これを塗りなおす場合は、ただ単に上塗りをするだけではきれいになりませんし、剥がれが見られる凹凸もそのまま出てしまいます。

 

修理後の写真のような仕上がりにするためには、いろいろな作業工程が必要です。

その工程は最後の上塗りをいかにきれいに美しく仕上げるかのためのもので、全く目に見えない部分です。

そして、その目に見えない部分こそが、結構面倒な部分でありながら、とても重要なのです。

 

そこで、漆の塗り直しが簡単ではない理由を簡単にいくつか挙げてみました。

 

 

 

①時間がかかる

漆は、ゆっくり乾くので、融通が利きません。

しかも、工程がいくつもあり、漆で下地をしたら何日か乾くまで置いて、また塗って乾くまで置いて・・・という風に、時間が必要です。作業よりも、寝かせておく時間のほうが多くかかります。

②一つ一つ状態が違う

写真のお椀をご覧いただいてわかるように、修理の場合、一つ一つ傷み具合の状態が違います。

全く同じというのはほぼありません。

ですので、一つ一つ、手をかけるところも違ってきます。

新しいものを作る場合は、同じ作業をまとめて出来るので効率が良いのですが、修理品は状態を確認しながら進めていく必要があるので、効率は良いと言えません。

③まとまった数ではないので、無駄が多くなる

ご依頼いただく修理品の多くは、ご家庭で使っている漆器ですので、まとまった数ということはあまりありません。

一つからでも修理を承りますので、なるべく通常の同じような作業の合間に修理品を挟んでもらっているというのが現状です。

また、あまり使わないような色の漆の場合は、少量で調合することになり、手間を考えるとどうしても割高になってしまいます。

④産地や職人が違う

同じ職人が修理できれば、一番良いのですが、私たちのところへお問い合わせいただくお客様は、職人どころか産地さえも分からないということの方が圧倒的に多いです。

産地独特の技法だったり、同じ産地でも職人特有の技術だったり、どうしても無理なことがあります。

日本の伝統工芸は先細りしている中で、職人の数も減少しており、技術の継承もままならない状況です。

「漆器は直して使う」ということが、職人の減少によって、今後ますます難しくなってくると感じています。

 

⑤作った時代が違う

時々、とても古い昔の漆器の塗り直しをご依頼いただくのですが、昔よく使われていた漆でも今は使っていないということもあります。

また、あまりにも劣化が激しいと、気を付けていても予想していなかったトラブルが起こることもあります。

⑥漆の色合わせが難しい

天然素材の漆は、経年変化を起こします。

塗って間もなくは濃い暗い色が、徐々に明るく変化していくのです。

黒以外は色の変化が顕著にあらわれるので、同じ漆を使っていたとしても、色は同じには仕上がりませんが、徐々に近づいていきます。

 

色合わせは非常に難しいので、部分的な塗り直しの場合は、色が同じにはならないというご理解をお願いしています。

最後に

簡単ではない理由を、今思いつくだけ書き綴ってみましたが、これは、実際に経験から言えることです。

おかげさまで、最初は大変だと思っていたことが、経験を積むことで職人も私もずいぶん慣れてきました。

 

まずは、どんな些細な事でもご相談ください。

お問い合わせに関して、なるべくハードルを低くできるよう心掛けています。

 

私たちは、お客様に満足してもらえることが一番の喜びで、それがやりがいにつながりますので、出来る限りのことは職人と一緒に知恵を出し合ってやっていくつもりです。