本日は、漆の渇きに関してのお話です。
天然素材の漆ならではの性質を理解しないと、美しい塗りに仕上がりません。
漆の乾燥は、湿度と温度が重要
漆は、適度な湿度と温度の下で乾きます。
漆の乾燥に必要な湿度は70%~85%、温度は20℃~30℃と云われており、漆塗り職人の工房では、湿度と温度が管理された「漆風呂」に漆器を入れて乾燥しています。
また職人が使う漆風呂は、漆の塗りの厚みを一定にするために(ダレを防ぐ)回転する仕組みになっています。
乾く時間で、色の出方が変わる
漆は、塗ってから徐々に色が明るく変化する性質があり、湿度や温度を調整することで、色の出方が変わります。
湿度が低いとゆっくり乾き、ゆっくり乾いたほうが色が明るく出ます。
逆に、湿度が高いと早く乾きますが、色がより濃く変化します。
ですので、きれいな色を出したかったら、通常一日で乾くところを、3日ほどかけて乾かすのがいいと、ある漆屋さんに言われたことがあります。
もちろん、濃くなってから徐々に明るく変化はするのですが、最初の乾かす時間によって最終的な色の明るさが違いますので、そこが漆の面白いところだと思いませんか?
これは、失敗した経験からですが、先日、ずいぶん長い間放置しておいた山吹色の色漆で塗った後、乾燥させるために漆風呂に入れて様子を見たのですが、全く乾きませんでした。
一日経っても、二日経っても、乾く気配が一向になくて、放置しすぎた古い漆はおそらく腐ってしまっていて、そうなると、湿度や温度を調整しても全く乾かないということが分かったのです。
また、古い漆は、色の変化にも大きな違いがあって、普通なら山吹色を塗ってしばらくすると、濃い茶色のような色に変化するのですが、その古い山吹色の漆は塗っても、少しくすんだような山吹色位の変化しか起こさず、漆が古くなると色の変化もあまり起こさなくなるということがわかりました。
実際使うまでには、時間が必要
漆の刷毛塗りで塗ったお椀は、今日塗って、1週間後に使えるかというと、それはとてもお勧めできません。
手で持てるようにはなっても、実際は、しっかり乾くのに半年以上の期間を要します。
乾燥の早いMR漆というものも開発されているのですが...
最低でも3ヶ月はそのまま寝かせておくことをお勧めします。
塗って間もないと漆独特の臭いも少なからず気になりますが、しっかり乾いたころには臭いが気にならなくなります。
ずいぶん経つと、全く臭いがありません。
漆はかなりゆっくりとした成長、変化をする天然素材の塗料です。