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100年後に残る仕事

修理のご依頼を承る漆器の中で一番多いのが木製の重箱。

 

江戸時代のものから、平成に作られたものまで本当にいろいろな重箱が送られてきます。

私自身、とても興味深く拝見させていただいているのですが、送られてくるたび大事な宿題をいただいているような気分になります。

 

それというのも、ひとつひとつ傷み具合も違えば、この産地の技術ではできないものなど考えて考えて見積もりをしなければいけないからです。

 

以前から漆器の修理は請けていましたが、昔から馴染みのお客様からご依頼いただくことがほとんどでした。そして、ちょうど1年前からネットを通じて修理を承るようになり高価な木製の漆器修理を見ず知らずの私に預けてくださる方がいてくださるというのは、もしかして奇跡に近いんじゃないかと思うのです。

 

ネットの時代、検索すればたくさんの情報が当たり前のように入ってきて、そこから選んでいただいてお問い合わせをいただく。

 

業務用の漆器は数もあり、どちらかというと安価にできるというのがお客様のご希望にたいして、ご家庭で使われている漆器はお客様それぞれにストーリーがあり、価格も大事かもしれませんが、それ以上にモノに込められた思いがとても大事だと感じています。

 

 

昨日、あるお客様とのメールのやりとりで、すごく素敵な考え方だなと思って感動したことがありました。

 

写真のような木の目を活かした木地呂塗りの重箱をこの上からさらに透き漆をかけて仕上げると、色が濃くなり、この風合いがなくなってしまいます。

 

ただ、漆というものは永い年月を経て色も明るく変化し、いつかはこのような風合いになるということを説明させていただきました。

それを受けて、お客様から次のような返信が・・・

 

今仕上がりが黒っぽくなっても、また百年の時を経たなら今のような透明感のある色に変わってくれると思うと、たとえ自分がこの世にいなくてもまた百年後が楽しみですね。

 

素敵だと思いませんか?!

私、すごく感動したんです。百年近く前からある重箱が今でも使われ、百年後に想いを馳せて修理する。

越前漆器の職人さんはそんなすごい仕事に携わっているんだ!そして私もほんの少し関わらせてもらってる!と勝手に嬉しくなってしまいました。

 

もちろん、責任も重大です。お客様皆さん、仕上がりを楽しみに待って下さると思うと大きな宿題をひとつひとつ丁寧にこなしていかなければという思いでいっぱいです。